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夫と離婚後、アニサとアーンの2人のこどもを連れてジャカルタから離れた村へ移り住んできたラハユ。仕事に忙しく、まだ小さく育てるのに難しいアーンの世話は姉のアニサが主に担っていた。なかなか慣れない村の生活の中、アニサは村長の息子タマと親しくなっていくが、ある日母に叱られたアーンが失踪し、ウェウェ・ゴンベル(インドネシアの幽霊)の仕業だと説明される。数世代前、この村に暮らしていたジャムゥ売りのマルニという女性が村長一家にレイプされ、こどもも奪われた結果、成った幽霊だという。アニサたちが懸命に捜索した結果、しばらくしてアーンは帰ってくるが中空に向かって話しかけるなどどこか様子がおかしい。しかしアニサはそんなアーンの様子に戸惑うこともなく、母親のように振舞いはじめる。
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インドネシアホラーの良くない方面全部詰めのような映画だった。性被害と妊娠と出産をトリガーとして起こる怪異、ジャンルとしての歴史が長いので一概に全部を否定するわけではないんだけど、いまやるならいまの視点がなければ面白くないし不快なだけになってしまう。
被害を訴えることもできず回復は不可能で幽霊になるしかない女も精神障害描写の酷さも、そこに批判的視点がないならポルノ的消費にしかならない。幽霊になるしかなかった時代の女たちの怨念を表現するので精一杯だった時代には意味があっても、いまはもう違う。ソラヤの「スザンナ2」なんかは同じテーマのホラーリメイク作品でもそこが完璧に今見るべきホラーになっていた。ソラヤ作品、全部が全部うまくいってるわけじゃないけど「スザンナ2」は素晴らしい。
ラスト近く、ウェウェ・ゴンベルであるマルニに対して、母親であることの負担や社会的要求をラハユに喋らせてるあたり、監督としてはフェミニズムホラーの方向性をもたせてはいたんだろうなと思うんだけど、台詞で全部説明するのも下手過ぎるし、その台詞に物語がついていっていないので説得力がない。こんな村滅ぼしていいわ、ってマルニに対する同情と共感しか呼ばない設定で悪霊的母性を演出されてもちぐはぐすぎて。
レザ・ヒルマン演じるタマがイスラム教をもって霊に対抗する役割なんだけど、そこもタマ自身の信仰の結果と言うよりプロパガンダ的な使い方が強くて、人間の生活からそこだけ急に神の視点になってしまうので話の軸がぶれて見づらかった。最近こういう使われ方多いんだけど、検閲通りやすいとかうけがいいとかあるのかな。Tuhan, Izinkan Aku Berdosaのように、他の場面での宗教批判を覆い隠すための使い方なら理解するんだけど。
ただタマの王子様感はめちゃくちゃ良かったですね…レザヒルマン、王子キャラ多いよね。全部最高なのでもっとやってほしい。歌とか出してほしい。絶対にどこの誰より踊れるんだから…だめだ言ってて本当に欲しくなってきた。ヤヤン先生とチェチェプ先生の率いた至高のインドネシアアクションの後継が王子さまなんですよ。インドネシア映画最高。
アニサの友だちのインフルエンサー兼霊能力者もすごいよかった。この手のキャラ、インドネシアでは全然珍しくないけどきらきらインフルエンサー×霊能力がやはりまだ東アジアではちょっと変わったキャラ付けになってくるから目をひく。
というわけで主にキャラで★2つけたんだけど、だからといって最後の「続編ありますよ(観客の皆さん次第で)」も最近多いけど良くないよ!!決まってるならいいけど絶対決まってないでしょ!!!ちゃんと一本の映画として終わらせてくれ。