インドネシア映画の記録

見たインドネシア映画の記録をする。

Orang Ikan(2024)

Orang Ikan (2024) - IMDb

★★★★

太平洋戦争の最中、捕虜をインドネシアから日本に輸送する船が連合軍の攻撃を受け転覆する。イギリス兵のブロンソンと、上官の命令に逆らい捕縛されていた日本兵の斎藤は懲罰として互いを手錠で繋がれた状態のまま、とある島に流れ着く。殺し合おうとする2人だったが、突如海から現れた異形の生物、オラン・イカンに襲われ、ジャングルの中で共闘することとなる。

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大好きマイク・ウィルアン監督!!!東京国際映画祭に来ていただけたので、サインをもらえました。嬉しい……ちなみに審査員として来ていたニア・ディナタ監督にもトークショーでお会いしてサインが貰えて、今年は最高でした。

マイク・ウィルアン監督はシンガポール出身でアジアをまたにかけるプロデューサーであり、最近ではモンキーマンも手掛けています。インドネシア映画に携わることも多く、みんな大好き『The Night  Comes For Us/ナイト・オブ・シャドー』や『ヘッドショット』など有名作品多数。映画監督作は多くはないもののアリオバユの最高の水牛ウエスタン『バッファロー・ボーイズ』を代表に、今作で三作目です。

 

オラン・イカン(orang ikan)そのまま直訳で魚人なんですが、実際に太平洋戦争の頃にそういう話を日本兵が聞いたこともあるそうで、魚人伝説がこの地域に残っているらしい。映画での作られ方、CGではなく特撮スーツで、これが大変クオリティが高く、着ぐるみ感はないのにリアルで存在の質感が感じられました。監督いわく、中の人が死にそうに大変だった、とのこと。ジャングルの気温、湿度、海の水、そりゃそうだ…。ゴジラにも入ったことのあるプロのアクターの方が頑張っていたそうです。賞賛を送りたい。

ストーリー展開は超駆け足で、ブロンソンと斎藤も速攻で手を組むし、二人の、特に上官を裏切った斎藤の心情の理解は難しいところがあって見るところがあまりないかな…という感想だったんですが、映画後のQ&Aを聞いていて、この映画の中心はオラン・イカンであるということに気づくと一気に深まる。

共闘する敵同士とモンスター、ではなくて、侵入者と先住民、なんですよね。植民地支配に対する抵抗を明確に描いたバッファローボーイズの監督作品だよ、しっかりしてくれ自分、と思いました。見落としていた。オラン・イカンには子孫を共に残した相手がいて、その相手は連合国軍のパイロットに殺されていることが作中でわかるんですが、日本兵だろうと連合軍だろうと同じ、というメッセージが明確にそこにあるんですよね。太平洋戦争で戦っていたどちらも植民地主義のくそ帝国なんですよ。だからこの作品の肝はブロンソンと斎藤の関係にはない。だって双方ともにインドネシアをはじめとする諸国を支配し、搾取し、何もかもを盗んでいった奴なんだから。

だから最後、オラン・イカンを殺せ/殺さなかった斎藤が生き残ることに意味がある。オラン・イカンの首に日本刀をあててあと一押しするだけなのに(ここの殺陣、るろうに検心みたいでかっこよかった。ださいと見る向きもあろうが私はこういうだささは大好きです。ディーンフジオカ、演技はうまくないけど所作が綺麗だよね)斎藤はオラン・イカンの目を見てしまう。モンスターではなく、他者として見る。斎藤たち日本兵が、ブロンソンたち連合軍が、植民地化の国の人々をどうやって見てきたのかがそこに示されている。

ジェームズ・ワンがリメイクするのが決まっているようなんだけど、この辺の要素をきっちり理解して作ってくれるといいなと思ってる。

そういうわけで関係性としては薄かったけど、ブロンソンと斎藤のやおい走馬灯みたいなのも最後合って良かったです。