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売れない写真家の兄ヨハン、大手企業で働く弟エルウィン、そして雑貨店を営む父、3人の華人一家の物語。小さいけれど亡くした妻と共に始めた店は父親にとって大事な場所で、迫られる立ち退きも断固として断っていた。体調の悪化から父親はエルウィンに店を継いでほしいと頼むが、シンガポールへの栄転が決まっていたエルウィンは難色を示す。懇願され、一か月のお試し期間として店の経営を請け負うエルウィンだったが、一方で優秀な弟と比べられてきたヨハンはまたも父親が自分を選ばなかったことにショックを受ける。店を巡り、父と兄弟のお互いへの複雑な感情が表面化し始める。
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エルネスト監督は映画がうまい。リズム感があってコメディシーンもストーリーも滑らかに流れるように進んでいく。
インドネシアにおける複雑な華人の立場が一家の中に凝縮されていた。一家は1998年の華人が標的になった暴動に遭っており、今の店はいちから建て直したものであること。裕福というわけではなく売り上げを隣のライバル店と競い合って暮らしていること。従業員にはゲイや、ジャワ以外の出身者や、理解が少しゆっくりな人、そういうマイノリティが多くいること。ヨハンの妻はプリブミで、父親はその結婚に反対をしていたこと。エルウィンの働く大企業は婚約者である同僚も上司も華人であること。
被差別者であり、経済の中枢にいる権力者であり、マイノリティで、プリブミとの緊張関係がある。「華人」という括りで見たときの属性を設定だけで示している。
インドネシアで、ジャカルタで華人として生きるということは、1998の傷を生々しく背負わざるをえないのだということが、コメディなのに、それ自体に触れるのはほんのわずかなのに、深く伝わってきた。
ヨハンに対する父の仕打ちはひどいのだけど、実際に華人というただそれだけの理由で暴力を受けた父にとっては、特権階級への道を昇っていくエルウィンの姿は自分を傷つけた社会への報復のようなものであったろうし、反対を押し切ってプリブミと結婚したヨハンには裏切られた気持ちがあったのだろうと思う。
『珈琲哲學』のジョディの父親の気持ちも見えるようだった。
ラストは父親の謝罪により全てが納まるべきところに納まっていく綺麗な終わり方だった。
だから途中まではすぐに2が見たい!!という気持ちだったんですよ。でもね……女の扱いがね……Imperfectの監督なのになぜ、と思う。三年前だからまだ意識が薄かったのだろうか……女の身体を使って笑いをとるのも、エルウィンの婚約者に「俺がしがない雑貨屋の店長になってもついてこられるのか」と試すのも、ヨハンの妻が終始しょうもないヨハンの支えをやってるのも、店を立ち退かせようとする不動産屋の社長秘書に体張らせるのも、全て、は????という気持ちにさせられる。婚約破棄しろとしか思えなかったエルウィンの恋人、2ではラウラバスキに役者が変わっていてそこがメインぽいので見たいけど不安……Imperfectの後だから大丈夫かなあ……ただ差別表現連発されて早々に離脱したAGAK LAENにエルネスト監督、プロデューサーとして名を連ねてるんだよね。このあいだの反政府デモにも明確に声あげてたし、基本的に反骨の人ではあると思うんだけどコメディならやってもいいのラインが倫理的にだめなラインになってるんじゃないかという不安がある。作る映画自体は凄くうまくて好きなんだけど…KAKA BOSSも楽しみだし。